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1.32017
養子縁組がなぜ相続税対策になるのか?(追記あり)

今日はまだ三箇日です。
とはいえ帰省中という方もいらっしゃるのではないでしょうかね。
私も昨日東京に戻ってまいりました。
私の場合、年末年始というのはただの帰省ではなく、12月30日が親父の命日なので線香をあげる日なんです、ハイ。
ですので、年始よりもどちらかというと年末にきちんと戻ることのほうにウエイトを置いているかもしれません。
さてそんなこんなでまだ新年のエンジンのかかっていない方も多いかと思います。
このブログでもまだ去年の末に気にかかったお話しを少しづつしていくことにします。
今日は養子縁組についてのお話しです。
相続税対策がなぜ養子縁組か?
昨年2016年12月20日に日本経済新聞夕刊で伝えられた記事の見出しです。
「相続税対策の養子縁組 最高裁、「無効」見直しへ」
私も昔、FP試験を受けるまではこの話を聞いてもピンと来なかったと思いますが、見出しにあるように相続税の対策を講じたい方はご自分で理解されているようでご存知の方も多い印象があります。
で、参考程度に一応お話しをしようというのが今日の趣旨です。
というのもこの記事のお話しは、相続税法のお話しと民法のお話しが出てきているからなんですね。
まず先に見出しに従って相続税法にまつわる一般的なお話しからはじめましょう。
一般的な理解として、基本的に相続財産から基礎控除なるものを差し引いた財産額が相続税の課税対象となる、というのはご存知の方も多いと思いますし、平成27年よりこの基礎控除額が減額されたことによって相続税が課税される人が増えたというお話しもまたよく知られているところでしょう。
で、この基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですよ、というここまでのお話しは以前に遺産分割をなるべくわかりやすく話してみる~その2~いう内容でお話しをしています。
もしよろしければリンク先も併せてお読みいただけると幸いです。
さてお話しはここからです。
この基礎控除額における「法定相続人の数」が養子縁組とかかわってくる点ですね。
よくある事例ですが、自分の孫を養子縁組すると子供ということになりますから、孫が法定相続人になるわけです。
この場合、孫を1人養子縁組することによって基礎控除額が600万円増えることになりますから、その分だけ課税対象となる相続財産は減ることになるわけで、これが先ほどの見出しでいうところの「相続税対策」ということになります。
ただこの方法は実子がいる方については何人養子縁組しても基礎控除の法定相続人の数としてカウントできる養子の数は1人だけ、また実子がいない方でも2人までという制限があります。
これも昔、FP試験の講座で習ったことですけど、これを制限なく認めてしまうと「相続税対策」のためだけに養子縁組をする人が増えてしまうことになってみなさん相続税を納税されない方向へ向かってしまうだろうことを考えて制限を設けているわけです。
この辺が養子と相続税法の考え方です。
養子縁組の意思
一方、今度は民法のお話しについて考えてみましょう。
というのも今回の裁判はここがポイントなんですね。
まず民法第802条第1号という条文を確認します。
(縁組の無効)
第八百二条 縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
まああの「人違い」ってことはなりすましでもない限りあんまりないとは思いますが、大事なところは第1号後半の「当事者間に縁組をする意思がないとき」という言葉です。
この「意思」という言葉の意味ですが、最高裁判例昭和23年12月23日で以下のようなものがあります。
やや長めですが裁判所ウェブサイト内にある裁判要旨を引用します。
一 旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)にいわゆる「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは、当事者間において真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは、養子縁組は、効力を生じない。
(裁判所ウェブサイト内最高裁判所判例集 昭和23年12月23日 昭和23(オ)85 養子縁組無効確認請求 裁判要旨より引用)
なかなか深い判例でして「実質的意思説」なんていう言い方もあるようですが、難しい話はおいておいてと。
要するにこの要旨の最後が大事でして、本気で親子になるというよりも何か別の目的があって縁組をしたのであれば無効ですよ、っていうようなニュアンスだと思っていただければいいかなと思います。
実際、戦前の判例では兵役義務を免れるためにした縁組は意思がなくて無効とか(大判明39年11月27日、戦前は日本も徴兵制度がありましたのでね。)、芸妓稼業をさせる目的で養子縁組をしても真に養子縁組をする意思はないと無効とか(大判大11年9月2日)っていう判例がありあすが、今でも六法に載っている判例ですからね。
さて冒頭にもどって今回の日経新聞見出しの裁判ですが、遺族同士で争いになっていて一審の東京家裁は縁組を有効としたものの二審東京高裁は縁組を無効としました。
先程の日経新聞によれば次のように書かれています。
一審・東京家裁判決は有効としたが、二審判決は男性が税理士から節税効果の説明を受けていたことなどを考慮し「相続税対策が目的で、真の親子関係をつくる意思がなかった」として無効と結論づけた。
(2016年12月20日本経済新聞 夕刊 「相続税対策の養子縁組 最高裁、「無効」見直しへ」より引用 )
この事件について最高裁判所は12月20日に弁論を開いたそうです。
よく言われるように最高裁判所が弁論を開くときは何かしら下級審判決の変更があったりすることもあって、どうやら今回は「東京高裁判決が見直される可能性が高い」と先程の記事には書かれています。
どういう方向に落ち着くのやら、判決は今月末2017年1月31日だそうです。
(追記 2017年2月2日 14:10)
2017年1月31日に最高裁は東京高裁の判決を破棄して、今回の裁判についての養子縁組を有効という判決を示しました。
2017年2月2日に相続税対策と養子縁組についての判決を見てみるというブログ記事をアップしましたので、詳細はそちらをごらんいただければ幸いです。