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意外と大変な自筆証書遺言の訂正

前回まで3回にわたって「こんな自筆証書遺言は大丈夫?」というテーマでお話しをしてきました。

(ちなみに1回目はこちら、2回目はこちら、3回目はこちらでお話ししていますのでよろしければ併せてご覧くださいませ。)

さて今日はもう一つ、自筆証書遺言の訂正についてのお話しをしたいと思います。

というのも、自筆証書遺言の直し方はちゃんとした決めごとがあるんですね。

まあ「書き直せばいいんじゃないの?」というご意見もありましょうが、せっかく書いたものですからそれを生かしたいという考え方もあると思いますし、直し方のルールも決められています。

まずはそのあたりから今日のお話しをはじめましょう。

 

民法に書かれている自筆証書遺言訂正ルール

民法には自筆証書遺言の訂正方式に関する規定があります。

民法第968条第2項です。

民法第968条第2項

自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

まあこの日本語表現の難しいこと・・・。

一個一個拾って解説していかないとわかりにくいですよね。

では実際に拾っていくとしましょう。

まず冒頭の「加除その他の変更」ですが、これは遺言の内容を「足したり削ったり変更したり」という意味ですね。

よくありがちな「加除」の必要な遺言は次のようなケースです。

1.次の不動産を妻上野妻子(昭和○○年○月○日生)に相続させる。

練馬区石神井町1000番地1000の土地 宅地 100.00㎡

若しくは

1.次の不動産を妻上野妻子(昭和○○年○月○日生)に相続させる。

練馬区一丁目1000番地1000の土地 宅地 100.00㎡

というパターンです。

これけっこうあるんですけど、最初の場合では、練馬区の場合「○丁目」となっている地域が多いのですがそれが抜けている形。

二つ目のケースでは逆に「練馬区」と「一丁目」の間にくるべき「石神井町」などの地域名が抜けてしまっているパターンです。

これらはいずれも「加える」ことの対象になりますね。

またもし「100.00㎡」と書くべきところを「1000.00㎡」と書いてしまった場合は「0」を1文字「削る」必要があるわけですね。

あとは預金口座の銀行名や支店を書くときに書き違いがあったりもします。

この辺ちゃんと調べて落ち着いて書かないと大変なのが自筆証書遺言の難儀なところですね。

不動産や銀行口座の記載には気をつけてください。

で、さらに問題は後半部分です。

「その場所を指示し」つまり遺言書中のどの部分を直すかをきちんと示さないといけなくなります。

次に「これを変更した旨を付記して特にこれに署名し」ですから指示した場所を削除したり足したりと何をしたのか書いてさらにそこに署名しなくてはいけません。

ここまでの部分をまとめると次のような感じになります。

遺言者上野某さんが、相続させる人の氏だけ書いて名が抜けていた遺言書を書いたと考えてください。

本文中3行目相続人名に「誠」と加える 上野 某

これを欄外に書かなければいけないんですね。

で、これで終わりではありません。

「その変更の場所に印を押さなければ」とあるので遺言書本文、先ほどの「誠」と加えたところに印鑑を押すことになります。

ここまでしないとダメなんですね。

条文の最後に「その効力を生じない」とありますからね。

ところで誤解のないようにお話ししておきますが、この条文の「効力が生じない」という部分は「変更または訂正の効力が生じない」という意味です。

つまり自筆証書遺言は変更または訂正のない遺言書として扱われることになります。

遺言書そのものが無効になるわけではございませんので、ご注意くださいね。

 

例外的な判例

今までのところで自筆証書遺言の訂正がとっても大変だな、ってことがひとまず感じていただければ幸いです。

もし具体的な訂正について疑問のある方はご相談いただければと思います。

さてこの厳格な訂正方法ですが、判例には誤記の訂正について次のようなものがあるんです。

自筆証書遺言における証書の記載自体からみて明らかな誤記の訂正については、本条二項所定の方式の違背があっても、遺言の効力に影響を及ぼさない。

(最判昭56・12・18 なお三省堂「平成28年模範六法」の記載を引用)

ほー、って感じでしょうか。

「明らかな誤記」であれば先ほどご紹介した条文どおりに直さなくても訂正したものとして扱われるわけです。

ではこの「明らかな誤記」ってどんなケースですかね?

この事例は「遺言者がそれまでに書いた遺言書がもしあればそれらの遺言書を全部取り消す」旨の意思を示した遺言書でした。

で、遺言書本文中の最後に出てくる取り消す趣旨の文字を書き損じてしまい、そのまま上から筆記具と思われるもので線を何本も引いて消して、あたらめて取り消す趣旨の文字を書いたというケースです。

実はこの裁判例ですが最高裁判所に上告される前の高等裁判所での判決を裁判所ウェブサイトで閲覧できます。

その中で実際に争われた遺言書が遺言者のお名前や印など一部を除いて閲覧することができます。

拝見するとあたらめてこの判例の言わんとしていることがわかります。

とはいえすべての「明らかな誤記」と思われるものがこういう判例に該当するかどうかはきわめて微妙ですし、そもそも争いになってしまうような遺言書では遺言書の本来の役割を果たさないことにもなりかねないですよね。

こういう事例は例外的なのですが、体調を崩したり亡くなる時期が近づいてから書く自筆証書遺言はどうしても筆跡も乱れることが多く、誤字脱字も目立つことがあります。

自筆証書遺言は、また公正証書であっても遺言者の方自身が元気なときから考えておいていただきたいものだと訂正方法を検討しながらあらためて思ったところです。

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